両親を早くに無くした志乃が兄と二人で暮らしていて、その兄が希さんと結婚して、そして兄が死んで。兄を亡くした妹と、夫を亡くした嫁が一緒に暮らしていく話。共依存な所もあるよなと思いながら読んでいたけれど、一々心に刺さる漫画だった。大事な人を亡くしたらそうなるよなって思って、墜ちてしまう気持ちも分かるし、そういう精神状態の時に笑おうとしても表情がおかしくなるのも分かる。

 いつもの場所にいつものように大事な人がいないだけでどれだけ辛いか。それを嫌という程感じさせられる漫画だった。

 でも、徐々に二人は立ち直っていく。若い志乃の方がやはりそれだけ心の傷から回復するのが早いのかな。両親を早くに亡くし、兄と二人だったから家族は兄しかいなかった志乃にとって、希さんは大事なお姉さんなんだよな。だから家族として凄く大事に思ってる。

 一方、希さんは志乃を妹として大事に思う気持ちはあれど、志乃を通して夫の大志を見ていたから、自分の狡さも分かっていて更に立ち直るのが遅れたんだろうなと。でも、変わった先輩や友達によって引っかき回されながら少しずつ気持ちに整理がついていく。つきかけては崩れの繰り返しだったけれど、それでも少しずつは。

 そんな二人にとって互いが大事な家族なのは変わらなくて、だからこそ

何があっても 何はなくとも 私たちは 二人で暮らしている

 ってなるんだろうし、それが二人の支えなんだろうと。だからこそ、高校を卒業して大学に行き、一人暮らしをする選択をした志乃も、それを送る希さんも辛いんだろうなって。別に永遠の別れでもなく、隣の県に行くだけでも、それだけでも寂しい。独りの寂しさは辛いから。

 希さんが志乃との最初の頃のエピソード(大志がまだ生きていて新婚さんだった頃)を思い出すシーンが、凄くツボで。先に家に帰ってきた希さんが晩ご飯の支度をしている時に志乃が帰ってきて……

「おかえりー」

「……え」

「?どーかした?」

「あ いや……」

「?」

「……その おかえりって言ってもらうのなんか久々で……ただいまって言うのも…」

「ただいまはまだ言ってないよ~」

「ああっ ただいまです!」

「おかえり~」

 このシーンの志乃の表情が良いんだよ。両親が亡くなり、兄は働いてるから一人で家にいるのが当たり前だった志乃にとって、「ただいま」「おかえり」なんて言葉はずーっと言ってなかった訳で。そしてそれに慣れていたからそこまでもう寂しくなかったんじゃないかなとも思う。でも、そこで「おかえり」って言われたら、そりゃ顔赤くなっちゃうのも分かる。嬉しいよね。これが当たり前になっていく今の生活は、やっぱり二人にとって大事なものだから。

この「いつも」を守ろう

志乃ちゃんが別の家で暮らし始めても

「ただいま」って帰ってこれる

そして

私が志乃ちゃんと迎える

『いつもの』

この大切な「いつも」を守っていこう

 希さんにとっての志乃が出た後、この家に残り続ける理由が確固たる物になった瞬間だよね。もう「いつも」なんだよ。何かもう泣けて泣けて。本当に二人にとって、大事な人を亡くした心の傷を癒やしてくれたのは互いなんだよなぁって。だからそれがもう「いつも」になって、「ただいま」「おかえり」がある家になる。

 この話の後でお守りネタの話があって、受験に向かう志乃についていこうかと聞く希さんに

「みんなのお守りもついてるし だから 希さんにお願いしたいのは一つだけだよ 頑張って帰ってくるから 帰ってきたら「おかえり」って迎えてよ」

 また泣いた。志乃が良い笑顔してるんだ。これが本当にお願いしたい事、大事な事なんだよーって。

 そして一人暮らしする為に引っ越しをして。二人で荷物を片付けて一緒に寝て。そして翌日の希さんが帰る。

「泣いちゃだめだよ」

「泣かないよぉ~」

「さみしくなったら帰ってきていいんだから ねっ」

「はいはい」

「じゃあね」

「うん」

 でも戸を閉める時、志乃は涙ぐんでいて、希さんも涙を流して……互いの顔は見てないけど、互いに分かってたんじゃないだろうか。寂しいよね。でもそうやって進んで行かないといけない。「いつもの」が変わっていく。

 まあ、毎日、志乃から写真送って貰ってそれに返事してって、もう遠恋カップル以上にやりとしているけど(笑)。そんな希さんにもっと自分の事に何かやってみたらという先輩に髪を切ろうかと……とか言った途端に「予約いれましょ」ってすぐ予約される先輩……流石だ(笑)。この坂本先輩って「言いたくないならいいよ 聞かないし 言いたかったら言って 聞かないから」って言うタイプの人だからなぁ。でもだからこそ言える事もあるし、何だかんだ手を差し伸べてくれる人だからね。今回も希さんを進ませたかったんだろうなと。

 で、髪を切って、デートしようと坂本先輩につれていかれたのは……志乃のバイト先。そりゃ志乃も驚くわ。県を越えて連れて行く坂本先輩の行動力よ(笑)。でも、お陰で希さんが髪を切った姿も見れて……これって、希さんの変化を志乃に見せるって事で希さん自身の気持ちも、志乃の気持ちも「変わった」という事を意識させる意図だったんじゃないかな。

 夏休みに家に帰ってきたら、希さんは車買ってるし、志乃は希さんに晩ご飯作るって言うし、お互い変わったよね。

 そして友達関連がごちゃっと集まってワイワイやって……ベランダに出た希さんを追って出て来た志乃との会話。

「志乃ちゃんさ 前言ってくれたよね」

「ん?」

「夏祭りの時に 「何があっても希さんの妹って信じる事にした」って あれ 私も思ってるからね この先何があっても 誰と出会っても ずっと 志乃ちゃんは私の一番大切な妹だよ それだけはずっとこのまま一生変わらないから」

「うん」

 最後に皆で旅行に行って、志乃は大志の夢を見て……希さんも大志の夢を見て……志乃の夢の中の大志は笑ってた。きっと希さんの夢の中の大志も笑ってたんじゃないかな。

 そして表紙裏……表紙の絵って希さんと志乃がいるんだけど、そこに大志が生きていた世界線の絵が表紙裏に入るんだよね。今回も、ベランダで髪を切った希さんと髪が伸びた志乃の二人の表紙だったのに対して、大志も入って3人で笑ってる。毎回この表紙裏に泣かされるけど、今回もやっぱり泣いた。

 何はともあれ遂に終わってしまった……という脱力感がある。でも綺麗に終わったとも思う。本当に毎話毎話どうなるのか気になって、二人が救われて欲しくて。周りに良い友達や先輩がいるからきっと大丈夫だとは思いつつも、ちょっとした事から気持ちが墜ちてしまうのも分かるから、心配で。でも、最後、笑顔で終われて、大志の事も笑って出て来てくれる事が想い出ではなくて、今出てくる大志なんだろうなって。そういう風に二人の中である程度落ち着けたんじゃ無いかなって思って、だからこそこれで話が終わりなんだなって。

 私にとって人ごとじゃない悲しみだからこそ、目が離せなかったし感情移入が激しい漫画だったけれど、救われて、笑顔で終わって良かった。この二人がこのまま互いを大切に思いつつ、自分の人生をきちんとまた歩めるだろうと思えたのは救いだよ。

 くずしろ先生お疲れ様でした。多作だし、アニメ化も2つ控えていて大変だとは思いますがまた素敵な漫画を楽しみに待っています。